北里大学医学部教育研究単位新世紀医療開発センター・神経耳科学

新世紀医療開発センター

・神経耳科学

内耳性めまい・難聴疾患の病態解明と新規治療法の開発

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研究について(これまでの主な研究)

1)内耳の3次元形態の解析
 内耳、特に前庭器は、頭部の回転加速度、直線加速度(頭部の傾斜)を感知する器官です。その形態、頭部の基準平面に対する方向を決定することは機能を解析するうえで重要でしたが、内耳は迷路と呼ばれているように立体的な形態の把握が非常に困難な部位であります。そのため、特に耳石器平衡斑において正確な形態・空間配置の検討がなされていませんでした。本研究では米国ノースカロライナ州Wake Forest大学、耳鼻咽喉科・側頭骨研究室においてヒト側頭骨の連続切片を作成し、それらを3次元再構築を行うことにより、耳石器 球形嚢斑(S)、卵形嚢斑(U)の3次元形態と頭部の基準平面に対する方向を正確に測定することに成功しました。
 
2)耳石器の機能検査法の確立
1)で述べた耳石器平衡斑の3次元形態の解析結果を用い、耳石器の機能を測定するための直線加速度刺激装置を考案しました。耳石器における至的刺激である直線加速度を加え、耳石器一眼反射を解析することにより耳石器機能を測定します。本装置は左右の卵形嚢斑・球形嚢斑(4つの平衡斑)のうち、特定の一つの平衡斑を主に刺激することが可能で、その平衡斑の機能の測定が可能となります。本装置は、日本、米国、ドイツにおいて特許を取得しております。
 
3)メニエール病の発症メカニズムに関する研究
 現代のストレス社会において増加している疾患のひとつにメニエール病が存在していますが、その発症メカニズムは不明であります。
メニエール病の発症は精神的・肉体的ストレスと関連があると考えられています。そこで、ストレスホルモンの一つ下垂体後葉ホルモンである抗利尿ホルモン(Arg-Vasopressin, AVP)がの血漿中の濃度がメニエール病患者さんで高値を示すという報告があります。本研究ではAVPを実験動物に投与したすることによるメニエール病動物モデルを作製し、基礎実験を行っています。メニエール病の主な症状は回転性めまいと聴力低下ですが、同動物モデルにおいてめまい症状の判定は困難なため聴力低下を聴性脳幹反応(ABR)を測定して調べてみますと、AVPの投与後に聴力が低下していることが確認されました。また内耳形態に変化があるかどうかを透過型電子顕微鏡を用いて調べてみますと、蝸牛血管条中間細胞に細胞内浮腫と考えられる液胞が発生していることが確認されました。論文@@。またAVP投与により血管条局所の組織・酸素分圧が低下すること、また蝸牛内リンパ電位が低下することがわかりました(未発表)。これらのことからメニエール病の発症には、AVPの分泌過剰、それに伴う内耳循環障害が関連している可能性を考えています。
 
4)メニエール病に対する全く新しい治療法の開発
 メニエール病の本態は内リンパ水腫という内耳の内リンパ液が内リンパ腔に過剰に存在する状態と一般的に考えられています。そのため、その治療法として、一般に利尿剤を用いて内リンパ水腫を抑制することが試みられてきました。また内リンパ水腫の助長を防ぐために水分摂取制限がなされていました。しかし我々の研究グループは3)の研究結果を踏まえて抗利尿ホルモン(Arg-Vasopressin, AVP)の下垂体後葉からの分泌を抑制するために、十分な水分摂取によりAVPの分泌を抑制し、内耳循環を改善することが期待できると考え、メニエール病の治療に応用するという臨床研究を行いました。心・腎臓機能が正常に保たれている患者さんに十分な水分摂取を指導し、2年以上経過観察を行いました。メニエール病は本来進行性の疾患で長期的には聴力は不可逆的に低下し、回転性めまい発作を反復します。
 ところが十分に水分摂取を行った症例では対象症例に比して有意にめまい発作を抑制し、聴力は改善、または保存させることが出来ました。本治療法を水分摂取療法、Hydration therapyと命名し、臨床に応用しております。(第64回日本めまい平衡医学会で発表した「メニエール病に対する水分摂取治療 第3報」が発表論文最優秀賞を受賞)
 
5)環境ストレスと内耳障害の関連の解明
 メニエール病を始めとする内耳障害疾患は精神的ストレスと関連があることは臨床上 度々経験しますが、そのメカニズムは現在も不明であります。一方イノシトール三リン酸受容体(IP3受容体)がストレスにより障害されること、またストレスから脳細胞(小脳プルキンエ細胞)を守る働きがあることが分子機構レベルで解明されました(理化学研究所、脳化学総合研究センター発生神経生物研究チーム)。我々は同研究所との共同研究としてストレスによる内耳障害メカニズムを解明する研究を2013年4月より開始しました。

診療について

北里大学東病院神経耳科ホームページをご覧ください。

 北里大学東病院 神経耳科において内耳性疾患、主にめまい・平衡障害疾患の診療を行っています。特に現代のストレス社会によるメニエール病症例、また日本で進む高齢化社会で平衡障害の症例が増加しております。
 メニエール病の発症に肉体的・精神的ストレスが強く関連することがわかってきています。わが国は現在、日常生活の中でストレスが増大していますが(ストレス社会)、そのためメニエール病の発症が急増しています。メニエール病は強い回転性めまいの反復と進行する聴力低下を特徴とします。その症状を軽快させることが困難なため、めまい発作による緊急入院が多発しておりました。また、入院中まさにメニエール病の治療薬を投与中にも関わらず、めまい発作を起こしてしまう患者を多数経験しておりました。そこでこれまでの治療法の限界を感じ、前述のごとくメニエール病の病態の解明に関する研究を行い、その結果現在行っております水分摂取療法を開発いたしました。
 メニエール病の病態は内リンパ水腫(内耳に内リンパ液が過剰に頂留する状態)と考えられておりましたので、治療において水分摂取は制限することが常識でありました。しかし研究の結果、逆に水分を十分に摂ることで内リンパ水腫を誘導してしまう抗利尿ホルモンの分泌を抑制でき又内耳循環を改善した結果、メニエール病の治療として大きな効果を上げることになりました。
 この治療法を「水分摂取療法Hydration therapy」と名付け、2006年より本格的に開始いたしました。その結果、既存ののメニエール病の治療を行った場合に比してめまい発作回数、聴力の長期予後が統計学的に有意に改善いたしました。本治療法に関する論文や学会で発表してきました結果、徐々に広まり本治療法を希望する患者さんが全国から受診しております。
 またわが国が抱える社会的問題として急速に進む高齢化があり、神経耳科学分野では高齢者のめまい発作・平衡障害も早急に解決しなければ行けない問題と位置づけられています。同疾患に対する治療法を当科では以前より用意しておりました。北里方式のめまいに対する平衡訓練(めまいのリハビリテーション)がそれですが、この平衡訓練法は現在わが国のスタンダードになっており、この治療を希望して受診する患者数も増加傾向にあります。

診療に関する主な報道
新聞報道
毎日新聞 2007/6/19
読売新聞 2011/4/1
東京新聞 2010/3/19
中日新聞 2010/3/19
夕刊フジ ニッポン病院の実力 2015/8/12

地方新聞
琉球新報 2011/7/12 岩手日日 2011/8/1 
茨城新聞 2011/7/17 陸奥新報 2011/8/11
釧路新聞 2011/7/14 苫小牧民報 2011/7/20
十勝毎日 2011/7/4
リビング東京西 2015/2/21

講談社雑誌 HBR Health and Beauty Review 2012 9月号
朝日新聞系雑誌 週刊朝日 2013/3/27号
朝日新聞系著書 週刊朝日MOOK 名医の最新治療2014

テレビ報道
NHK教育(Eテレ)ここが知りたい名医にQ  前編 2011/7/9
後編 2011/7/16
総集編 2011/10/29
フジテレビ 情報プレゼンター とくダネ 2013/4/24
NHK総合 ためしてガッテン 2013/9/4
NHK教育(Eテレ)チョイス 2016/7/9
アンコール 2016/11/12

  • ・神経耳科学:画像1

    内耳の3次元形態の解析

  • ・神経耳科学:画像2

    耳石器の機能を測定するための直線加速度刺激装置

  • ・神経耳科学:画像3

    耳石器の機能検査法の確立

北里大学医学部 新世紀医療開発センター ・神経耳科学

連絡先: 〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
長沼 英明

教授:長沼 英明

Hideaki Naganuma, MD, PhD, Professor

担当科目:

第4学年:器官系別総合 耳鼻・咽喉・口腔系 内耳平衡学1,2、
第5学年:耳鼻咽喉科・頭頸部外科臨床実習:神経耳科外来見学実習

専門分野:

神経耳科学
 
<主な所属学会>
1. スウェーデン Uppsala University Barany Society member
2. 日本めまい平衡医学会 専門会員(active member)・代議員・相談医
3. 日本耳鼻咽喉科学会 専門医
4. 日本耳科学会
5. 日本聴覚医学会

<主な役職> 
診療系(北里大学東病院):北里大学東病院副院長、診療部長、めまいセンター長、神経耳科科長
 
法人関連:学校法人北里研究所 評議員

教育について

卒前教育:これまでに医学部において耳鼻・咽喉・口腔系(第4学年)、臨床実習(第5学年、外来見学実習)を担当しています。耳科学に関する解剖、生理、特に平衡覚・聴覚感知のメカニズムを理解させること、そして将来実践の場に立ったときに自分で考え行動が出来る医師になれることを目標に教育することを心がけております。
 特に医学部では原因不明の疾患の病態の解明、新しい治療法の開発を自ら行おうとする意欲が発芽するよう、病態のメカニズムを自ら考えるような講義•実習にするよう努力しております。
卒後教育:1993〜1994にかけて米国ノースカロライナ州ウェークフォレスト大学耳鼻咽喉科側頭骨研究室に留学した経験をいかして、ヒト内耳形態の3次元的解析の研究を行いましたが、その一つである三半規管膜迷路の3次元的解析に関する研究を直接学位指導を行いました。

特許、外部獲得研究費

<特許>
・日本国特許, 長沼英明、直線加速度刺激装置 特許第4303502号、平成21年5月1日取得
・米国特許. Naganuma H: Methods and apparatuses for stimulating otolith organs by linear acceleration. United States Patent No. 7,691,073 April 6, 2010
27. ドイツ国特許;Hideaki Naganuma; Verfahren und Vorrichtung zum Stimulieren von Otolithenorganen durch Lineare Beschieurigung. Uber die Erteilungdes Patents Nr. 10 2004 014 132. 22.09.2011
 
主な外部獲得研究費
厚生省 日本長寿科学振興財団、外国への若手研究者派遣事業より助成金
  研究代表者 期間:1994年度、 
研究課題名:側頭骨病理に関する研究
文部科学省 平成13年・14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)
  研究代表者 期間:平成13,14年度
研究課題名:内リンパ水腫の発生メカニズムに関する研究
文部科学省 平成15年・16年度科学研究費補助金 基盤研究(C)
  研究代表者 期間:平成15,16年度
  研究課題名:内リンパ水腫発生過程における聴覚低下メカニズムに関する研究
文部科学省 平成18年・19年度科学研究費補助金 基盤研究(C)
  研究代表者 期間:平成18,19年度
研究課題名:抗利尿ホルモン投与による聴覚低下動物モデルにおける蝸牛血管条、外側壁病変の解析
文部科学省 平成21年〜24年度科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究代表者 期間:平成21〜24年度
研究課題名:抗利尿ホルモン投与による血管条の形態変化に伴う聴力障害に関する研究
文部科学省 平成27年度〜 科学研究費補助金 基盤研究(C)
研究代表者 期間:平成27年度〜
研究課題名:ストレスによるIP3受容体を介した内耳障害発生のメカニズムの解明

厚生労働省 平成18年 19年度 科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業
「前庭機能異常に関する調査研究」研究費 班長 竹田泰三教授
厚生労働省 平成20〜22年度 科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業
  「前庭機能異常に関する調査研究」研究費 班長 渡辺行雄教授
厚生労働省 平成21年度  科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業
「自己免疫性内耳障害の実態把握のための多施設研究」研究費 
班長 柿木章伸講師
厚生労働省 平成23〜25年度 科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業
    「前庭機能異常に関する調査研究」研究費 班長 鈴木衛教授

主な研究業績

  1. Ochiai A, Naganuma H.: Wernicke’s encephalopathy with upbeat nystagmus. Equilibrium Res 75 (6): 505-510, 2016

  2. Naganuma H, Kawahara K, Tokumasu K, Satoh R, Okamoto M.: Effects of arginine vasopressin on auditory brain stem response and cochlear morphology in rats, Auris Nasus Larynx. 41:249-254, 2014

  3. Katsumata O, Ohara N, Tamaki H, Niimura T, Naganuma H, Watanabe M, and Sakagami H: IQ-ArfGEF⁄ BRAG1 is associated with synaptic ribbons in the mouse retina. European Journal of Neuroscience, Vol. 30: 1509-1516, 2009.

  4. Wada M, Naganuma H, Tokumasu K, Hashimoto S, and Okamoto M: Inner-Ear Function Test in Case of Posterior Canal-Type Benign Paroxysmal Positiona Vertigo. International Tinnitus Journal, 13(1): 91-93, 2009.

  5. Wada M, Naganuma H, Tokumasu K, Hashimoto S, Ito A, and Okamoto M.: Atherosclerotic change as the background with peripheral vestibular disorders. International Tinnitus Journal, 14(2): 131-134, 2008.

  6. Naganuma H, Kawahara K, Tokumasu K, and Okamoto M.: Water May Cure Patients With Meniere Disease. LARYNGOSCOPE 116: August: 1455-1460. 2006.

  7. Hashimoto S, Naganuma H, Tokumasu K, Ito A, and Okamoto M: Three-dimensional reconstruction of the human semicircular canal and measurement of each membranous canal plane defined by Reid’s stereotaxic coordinates. Anals of otology, rhinology & laryngology , 114(12): 934-938,2005

  8. Naganuma H, Tokumasu K, Okamoto M, Hashimoto S, and Yamashina S: THREE-DIMENSIONAL ANALYSIS OF MORPHOLOGICAL ASPECTS OF THE HUMAN UTRICULAR MACULA. Annals of Otology, Rhinology & Laryngology, 112 (5): 419-424,2003

  9. Naganuma H, Okamoto M, WOODSON B.T., and Hirose H: Cephalometric and Fiberoptic Evaluation as a Case-selection Technique for Obstructive Sleep Apnea Syndrome (OSAS). Acta Otolaryngol (Stockh), Supple 547:57-63,2002.

  10. Naganuma H, Tokumasu K, Hashimoto S, Okamoto M, and Yamashina S: Three-Dimensional Analysis of Morphological Aspects of the Human Saccular Macula. Annals of Otology, Rhinology & Laryngology, 110 (11): 1017-1024, 2001.

更新日:2017年04月04日