北里大学医学部教育研究単位寄生虫学単位

寄生虫学単位

寄生現象を分子で紐解く:寄生虫ベースの創薬プラットフォームを創る

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教育について

医学部3年次の寄生虫学総論・実習を担当しています。寄生虫は感染症の原因となる病原体の中で、ウイルスや細菌とは違って独特の「生活環」を保有することが大きな特徴です。寄生虫学ではこうした寄生体の特性を調べ、寄生される側(宿主・人体)の反応との相互関係を学びます。将来、感染症を診断し、治療する医学生が、この複雑怪奇な病原体と病害を受ける人体の反応の関係を正しく理解できるよう学習します。多くが肉眼で観察できる寄生虫を、豊富な標本を観察しながら学習できるのもこの教科の特色です。

研究について

宿主の感染防御機構を凌いで生活環を築き上げる寄生虫は、私たちが保有しない生物活性物質を作り出していることが分かってきました。病気を起こす寄生虫は当然悪者ですが、そうした独特な物質の働きをうまく逆手にとれば、寄生虫症の制御に使えるのではないかと考えています。私たちの研究室では、寄生虫特有な物質の機能と、宿主との応答機構を探りながら、創薬に向けた研究展開を図っています。具体的には寄生虫ゲノムデータベースの構築、遺伝子・蛋白質の機能解析、逆遺伝学的手法などを広く活用して、宿主への付着・侵入・移行の仕組みを探りながら、感染防御機構をかわす応答メカニズムを明らかにします。たとえば、炎症反応を惹起するサイトカイン、白血球などの産生に対して抑制的に働く分子群を、まずは生化学的、分子細胞生物学的に解析し、マウス・寄生虫感染モデルを最大限に活用しながら、時には、KD寄生虫や標的分子KOマウスを導入して論理的に感染時の応答機構を検証します。得られた知見は構造生物学などと連携しながらワクチンや化合物の設計に応用、動物試験での効果判定を通して薬剤としての有効性を調べます。

  • 寄生虫学単位:画像1

    私たちは寄生線虫やマダニを用いた研究から、寄生現象を支える実行因子が次々と明らかになって来ました。吸血動物のマダニからは主に血液凝固、創傷治癒を抑制する生物活性物質が見つかっています。左図は血管新生抑制作用を有するヘマンギンの薬理作用を示しています。ヘマンギンはHUVECの管腔形成を阻害し、発育鶏卵にて毛細血管の新生を抑制します。体表付着時、唾液腺から刺咬部位に放出されるヘマンギンは、宿主炎症反応を阻害することで吸血を有利に進めているものと考えています。 

  • 寄生虫学単位:画像2

    生活環の形成を支える実行因子の機能をさらに詳細に調べると、シグナル伝達経路にも作用していることを突き止めました。非定型セリンプロテアーゼのロンギスタチンは発見当初、プラスミノーゲン活性化因子として血液凝固阻害作用を発揮するものと考えていましたが、刺咬部位の好酸球浸潤との関連性を調べていくうちに、炎症反応の発端となるReceptor for advanced glycation end products (RAGE)に作用し、下流にある炎症性エフェクターを下方制御しながら、吸血行動を展開していることが分かりました。

  • 寄生虫学単位:画像3

    機能解明された寄生虫生物活性物質は蛍光染色、免疫電顕などの可視化技法を用いて局在を明らかにします。多細胞生物の寄生虫には私たちと同じように諸器官が備わっていますので、この解析によって虫体発育時期、感染時期による発現動態を明かにすることが出来ます。(a)緑色蛍光:回虫ワクチン抗原、(b)左上:緑,細胞内寄生バべシア原虫、右上:赤,感染症媒介者(ベクター)が保有する原虫伝播調節物質のロンギパイン、左下:重ね合わせ、右下:位相差像。(c)緑色蛍光:唾液腺におけるヘマンギン局在。(d)中腸上皮細胞におけるロンギパインの局在(金コロイド)。

北里大学医学部 寄生虫学単位

教授:辻 尚利(寄生虫特異代謝経路の解明と創薬基盤の開発)
講師:小山浩一(寄生線虫類の生物学的特性の解明)
講師:八田岳士(ベクターの吸血現象と病原体伝播機構の解明)
助教:坪川大悟(寄生蠕虫の宿主侵入・体内移行機構の解明)
技術員:三上房子

連絡先: 〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
tsujin@med.kitasato-u.ac.jp
辻 尚利

教授:辻 尚利

Naotoshi Tsuji, PhD, Professor

担当科目:

寄生虫学総論・実習、
感染症・免疫系Ⅰ

専門分野:

分子寄生虫学、節足動物媒介感染症学

キーワード 

節足動物、疾病媒介動物(ベクター)、宿主-寄生体相互関係、ゲノム、蛋白質、代謝ネットワーク、分子間相互作用、薬剤耐性機構、抗止血機構、抗炎症機構、シグナル伝達

研究室への参加募集

開設されたばかりの研究室ですが、寄生虫(原虫、蠕虫、衛生動物)の生理生態を遺伝子や蛋白質レベルで解明する研究実績は豊富です。常に新しい解析手法を導入しながら、世界をリードする分子寄生虫学研究を推進しています。寄生現象を分子レベルでいっしょに探ってみませんか。時には東アフリカなどに出向き、感染症熱帯医学における寄生虫病を自分の目で見ながら研究テーマの意義を顧みることができるのも私たち寄生虫ラボの特色です。新たな抗寄生虫薬開発のベースが今私たちの研究室から続々と発信されておりますので、RDを学びたい人にもピッタリだと思います。 

 

学部生、大学院生問わず詳しい研究内容や興味ある方は遠慮なくお問い合わせください。

主な研究業績

  1. Anisuzzaman et al (2014) Longistatin in tick saliva blocks advanced glycation end-product receptor activation. J Clin Invest. 124: 4429–44.

  2. Jąkalski M et al (2014) Update to the Full-parasites database brings a multitude of new transcriptomic data for apicomplexan parasites. Nucleic Acids Res. 43: D631-6.

  3. Matsubayashi M et al (2013). High-throughput RNA sequencing profiles and transcriptional evidence of aerobic respiratory enzymes in sporulating oocysts and sporozoites of Eimeria tenella. Infect Genet Evol. 18C: 269-76.

  4. Anisuzzaman et al (2011). Longistatin, a plasminogen activator, is key to the availability of blood-meals for ixodid ticks. PLoS Pathog. 7: e1001312.

  5. Hikosaka K et al (2010) Divergence of the mitochondrial genome structure in the genera Babesia and Theileria, parasites in Apicomplexa. Mol Biol Evol. 27: 1107-16.

  6. Islam MK et al (2009) The Kunitz-like modulatory protein, Haemangin, is vital for hard tick blood feeding success. PLoS Pathog. 5: e1000497.

  7. Arakawa T et al (2009) Malaria ookinete surface protein-based vaccination via the intranasal route completely blocks parasite transmission both in passive and active vaccination regimes in a rodent malaria infection model. Infect Immun. 77: 5496-500.

  8. Tsuji N et al (2008). A cysteine protease is critical for Babesia spp. transmission in Haemaphysalis ticks. PLoS Pathog. 4: e1000062.

  9. Tsuji N et al (2007). Babesial vector tick defensin against Babesia sp. parasites. Infect Immun. 75: 3633-40.

  10. Islam MK et al (2005).The roundworm Ascaris suum pyrophosphatase plays an essential role in worm’s molting and development. Infect Immun. 73: 1995-2004.

更新日:2015年07月08日